最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)774号 判決 1956年11月30日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人吉原歓吉、三谷清、船橋俊通の上告理由第一点について。
原判決は、その理由において、国家賠償法第一条の職務執行とは、その公務員が、その所偽に出づる意図目的はともあれ、行為の外形において、職務執行と認め得べきものをもつて、この場合の職務執行なりとするのほかないのであるとし、即ち、同条の適用を見るがためには、公務員が、主観的に権限行使の意思をもつてした職務執行につき、違法に他人に損害を加えた場合に限るとの解釈を排斥し、本件において、梅津巡査がもつぱら自己の利をはかる目的で警察官の職務執行をよそおい、被害者に対し不審尋問の上、犯罪の証拠物名義でその所持品を預り、しかも連行の途中、これを不法に領得するため所持の拳銃で、同人を射殺して、その目的をとげた、判示のごとき職権濫用の所為をもつて、同条にいわゆる職務執行について違法に他人に損害を加えたときに該当するものと解したのであるが、同条に関する右の解釈は正当であるといわなければならない。けだし、同条は公務員が主観的に権限行使の意思をもつてする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもつてする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによつて、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもつて、その立法の趣旨とするものと解すべきであるからである。(所論は憲法一七条を云為するけれども、原判決は、同条の解釈を示したものでないから、所論は、結局、国家賠償法一条に関する原判決の解釈を争うに帰するものと解すべきである。)
同第二点について。
所論最高裁判所の判例は、国家賠償法施行以前の事案にかかるものであつて、本件に適切でない。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)